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2005年3月12日 (土)

A Different Kind of Blue

Miles20050312 まだ学生のころ、ラジオから流れてくる音楽を聴いていて驚いたことがあった。ぜんたいとしてはいわゆるロックなのだが、ソロをとっているのがソプラノサックスで、それが実にうまいのだった。

コードを追っているようで時には自由にその枠からはずれて見せ、またコードの流れに舞い戻ったかと思うと終止感を持たせることもなく飄然として立ち去るような。かといって決してでたらめをやっているのではないということはそのIN/OUTのすれすれのところを行きつ戻りつしてそのスリルを楽しんでいることからもはかり知れる。

その時すでに管楽器コンプレックスを持っていた私は、「こんなへなちょこロックバンドでもこんなソロをするサックスプレーヤーがいるんだぁ!?」と羨望やら落胆やらいろいろ複雑な心境だったのだが、ラジオの曲目紹介によるとそれはどこかのロックフェスティバルに出演したウェイン・ショーターだったのだった。

まぁウェイン・ショーターだったら、そりゃしょうがないわなと納得した私であったが、そのときにそのコンサートをワイト島コンサートだと聞いたように思ったのだった。そういえばマイルスのグループがワイト等のコンサートに出演したという話は聞いたことがあったので、なるほどその関係か、と納得していた。

それ以来、マイルスグループのワイト島でのコンサートのようすをなんとか知りたいものだといろいろ捜していた。ジミ・ヘンドリックスのワイト島ライブ(何種類か出ているのだ)のDVDを何度か買いそうになったのも、ひょっとしたらマイルス・グループの演奏がその一部でも収録されていないかと思ったからだ。

前置きが長い。

ま、そういうわけで、見たいと思っていたワイト島のマイルス・グループの演奏を記録したDVDが出ているということをyahooのチャットで教えてもらった時には我が耳を疑った。速攻でAmazonで注文して、昨日届いていたというわけなのだ。「Miles Electric」というDVDで総録画時間は2時間くらいだろうか。で、そのサブタイトルが「A Different Kind of Blue」というわけなのだ。

グループの演奏自体は38分だが、その前後に関係者のインタビューがいろいろと入っていて、これがたいへんにおもしろい。

もちろんマイルス本人のインタビューもあるが、かつてマイルスのバンドに参加していたハービー・ハンコック、チック・コリア、キース・ジャレット、ジャック・「座頭市」・デジョネット、ゲイリー・バーツ、アイアート・モレイラ、ディーブ・リーブマン、ディブ・ホランド、ピート・コージー、マーカス・ミラー、バンドには参加していなかったがカルロス・サンタナ、よく分からないが電子音楽系のひと、それに敵役として「ジャズ評論家」がインタビューに答えている。マクラフリンも入れてくれればよかったのに。


それぞれのインタビューは楽器を持ってのインタビューで、「ほらこんな風に」と言う感じでそれぞれのインタビュー時(2003年らしい)の演奏が入る。インタビュー時には「マイルスに捧げる演奏をして欲しい」という注文を入れたらしいが、例えばキース・ジャレットは断ったようなフシがある。

興味深い演奏はマーカス・ミラーのベースソロだったが、一番おもしろかったのはアイアートの「ひとりビッチズ・ブリュウ」だった。「パーカッションだけで演奏するってのはなんだか悲しいね」とかいいながらやるのだが、アイアートは他にもいろいろとおもしろい話をしてくれてなんだかかわいいのであった。

かわいいといえば、若い頃(1970年)のディブ・ホランドもかわいい。

で、このDVDのひとつのテーマが、マイルスに対する当時の評論家たちへの反論という意味があるのだろう、当時のマイルスのロック導入に対して「商業主義に走った」と論じた急先鋒だったらしい評論家がインタビューで意見を述べている。この「評論家」って、ひょっとして顔で選んだんじゃないの? と思うくらいすごいご面相だ。これはきっと狙ってやっているに違いない。その顔を本日の日記の顔にしてみた。

その「評論家」の論に対して「評論家になるのにはなんの資格試験もない、口先だけでひとの人生をぶち壊すこともできるのにね」と言うストレートな反論から、マイルスの音楽に対する姿勢を示すさまざまな証言が語られて、それがこのDVDの大きなテーマになっている。

いろいろ語られたことはそれぞれに重みがあって全部紹介したいくらいだが、なかでもアイアートが言っていた「マイルスはおれに『叩くな、プレイしろ』っていうんだよ。音が大きすぎるのかと思って小さな音で演奏したら今度は『まわりの音をよく聞いてプレイしろ』っていうんだ。それでやっとどうすればいいかわかったよ」という言葉、さらにハンコックがいっていた「マイルスはひとの演奏をよく聞いていた。マイルスは自分の出す音の中にまわりから聞いた音と自分の出す音を凝縮していたんだ」という言葉がひとつの大きな側面だと思う。

すこしでもマイルスに興味を持っているひとにはぜひとも薦めたいDVDなのであった。

で、結局、ウェイン・ショーターはこのワイト島の演奏には参加していなかったのだった。私が昔聞いたあれはなんだったんだろうか?

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コメント

ワイト島のライブは僕も学生時代に多分、NHK-FMのなんだっけ、児島氏が解説してたジャズ番組でエアチェックした覚えがあります。言わなかったっけ?オープンリールのテープなんで今は聴けないんですけどね。コンサートについては下記に面白い解説がありました。
http://www.eiga-kawaraban.com/99/99062803.html

投稿: taki | 2005年3月14日 (月) 12時33分

なるほど、ジョニ・ミッチェルが観客を前に涙声で訴えると言うシーンも収録されていました。エア・チェックの話は申しわけないけど覚えていません。

投稿: picks-clicks | 2005年3月14日 (月) 21時15分

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