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2005年4月29日 (金)

JR西日本尼崎事故

痛ましい事故である。亡くなられた方々のご冥福をお祈りします。

私も3月上旬には何度もあの近くを訪れていた。伊丹空港からタクシーを使ったので福知山線には乗らなかったのだが訪問先が福知山線沿いだったのでJRの電車は何度も見ていた。

私も素人なりに事故の原因についていろいろ考えてみた。結論は脱線ではなくて横転である。その原因は「速度を超過したままカーブに入ったが、ブレーキをかけたために先頭車輌の後ろ側台車への加重が減少し、遠心力によって車体後部からねじられるような形で左へ横転した。」ということになる。以下はその検証である。


まず、カーブへ入るときの速度を検証する。グラフは通常の運転状況と事故車の運転状況をともに推定したものである。伊丹駅から尼崎駅までの距離は5.8km、通常ならこの距離を7分で走行する。伊丹駅で起きた1分半の遅れによって、走行状況がどう変ったかを考察する。

Amagasaki_3

 

まず、通常の運転を見てみよう。通常運転の速度分布を示す紫の曲線を見ていただきたい。定時に伊丹を出発し(距離ゼロ、時刻ゼロの原点)、じょじょに速度を上げていくが速度は70km/hで頭打ちとなる。ここで速度を出しすぎると問題のカーブを安全な速度で通過できないのである。

ちなみに、この速度分布を示すグラフで囲まれる領域の面積が走行距離になるので(速度の積分が距離になる)、この速度分布曲線はその面積を変えないように変形することができる。ただし、速度分布曲線の傾きが加速/減速の加速度になるのでこの傾きはできるだけ水平に近くなるように運転しなければならない。

上記のようなことを考慮しつつ、カーブに入る時点での速度を60km/hにおさえ、かつ尼崎駅に定時到着するように調整したのがこのグラフである。

この速度分布に従って走行すると、時間とともに走行距離が伸びて紺色のようなグラフになる。定時に伊丹駅を出発し、定時に尼崎駅に到着する。伊丹駅から焼く4.2kmの位置にあるカーブには60km/hで進入する。カーブ入口を示す距離に赤い点線を置いたが、通常の運転ではここを通過するのは伊丹駅を出てからちょうど4分(240秒)後である。そのときの速度が60km/hであることをグラフから読み取っていただきたい。


ところが、実際には事故車は伊丹駅で40mオーバーランということをやってしまった。その処理のために1分半遅れて出発したことを示すのが黄色で示されている事故車の速度分布(推定)である。出発直後の加速は通常通りだが、通常なら70km/hで加速をやめるところをさらに加速し、105km/hまで加速している。電動機の特性として速度が上がるにつれて加速力は弱くなるので、乗客は加速力だけでは異常を感じなかったはずだ。速度が上がると走行雑音が増えるので、それで不安を感じた人も多かっただろうが。

その速度分布に従って走行した距離を示すのが水色の線だ。カーブにさしかかる頃には遅れを半分ほど取り戻していただろう。しかしその速度はまだ100km/hを超えていた。

JRの運転士は、こういう速度分布計算を行う訓練を受けているのだろうか? 私はかつて遅刻に対して大変厳しい会社に勤めていたことがあり、遅れないためには出勤時に駅までどれくらい走ればよいかという方程式を持っていた。結果だけ言うと、それは「n分遅れたらn分走れ」というものだった。つまり例えば定時に家を出るのが2分遅れたら、駅までの道のどこかでとにかく2分走れば間にあう、というものである。

この速度分布のグラフをみると、1分半の遅れで伊丹駅を出た時点でカーブを制限速度である70km/hで通過するのは難しいことがわかる。最大加速度でこの電車の最大速度である120km/hまで達したところで急減速し、あとはカーブに入る速度ができるだけ下がることを祈りながらブレーキをかけ続けるしかない。ここではその想定に沿ったシミュレーションを行っていない(EXCELと手動で格闘するには荷が重い)。


次の図で、事故車にかかった遠心力を考える。半径300mのカーブを制限速度70km/hで走るときに遠心力は速度の二乗を曲率半径で割って求められる。この場合には70km/h(時速)が19.4m/s(秒速)なので、19.4×19.4÷300で1.25m/s2となる。重力加速度が9.8m/s2なのでこれは1.25÷9.8=0.128ということで重力の12.8%の遠心力が車体に掛かることになる。

このカーブでは外側のレールが内側よりも97mm高くなっているということだが、レールの間隔が1087mmであることを考慮すると97÷1087=0.089だから遠心力が8.9%のときにちょうど電車の傾きと遠心力とが釣り合う形になる。その時の速度を計算してみると58.2km/hだ。このカーブは60km/hで走行するように設計されているのだろう。このカーブを58km/hで走ると車体に横向きの力はかからず、乗っている人も遠心力を感じない。

時速58kmで走るように設計されているカーブを時速70kmで走ると、乗っている人は遠心力を感じ、車体はカーブ外側の車輪に加重がかかる。重力と遠心力との合力の方向が両方のレールの間にあるうちは「加重がかかる」ですむのだが、その合力がレールの外側に行ってしまうと車体は横転することになる。図はその様子を考察したものだ。

Curve1

この図は車体を前方から見ている。車体の傾きは5度で、この場合1087mmのレール間隔に対して外側のレールが95mm高くなることになる。車体のサイズについては高さ3700mm、幅2950mmということをこのサイト(リンク)で知った。レール間隔は先述の通り1087mmだが、この図ではその位置精度にちょっと問題がある。車体の重心位置はとりあえず車体中央とした(レールから1850mmの高さ)。

図では色の付いた線で重力と遠心力との合力を表わしている。青い線が58km/hで先に書いたように合力は傾けられたレールに対して垂直にかかり、理想的なコーナリングとなる。70km/hでは合力が少しカーブ外側へ向くが、まだ外側のレールには遠く、安全が脅かされることはない。ひとつ飛んで「133km/hでは転覆します」と言われている133km/hである。たしかに合力はレールの外側へはみ出しており、重心とレールの位置関係がこの通りならば間違いなく転覆する。

では問題の事故車速度105km/hではどうなるか(実際には108km/hだったそうだが筆者はこの計算を行ったとき105km/hだと思い込んでいた)。

微妙である。この図ではレールの位置がやや向かって左にずれているので(作画上のミス)おそらくはレールの内側にはあったと思われる。しかし重心の高さ(1850mm)についてはどうだろう。

電車の重量物はおもに床下にあるので、実際には車体中央よりも下にあるものと考えられる。車体高さの1/3として1200mmくらいだろうか。しかし、事故当時、580人の乗客が7台の車輌に乗っていた。1台あたり80人強である。車体重量20tに対して6tの人々の体重が重心を上げる方向に働く。それを考慮すると1330mmくらいだろうか。

説明を省きながら計算すると、

1330mm×tan(5)=116

1087÷2+116=659.5

659.5÷1330=0.496

0.496×9.8×300=1457.8

sqrt(1457.8)=38.18

重心の高さを1330mmとすると、38.18m/sが転覆限界速度ということになる。時速にすると137kmである。とすると、133km/hで転覆するということだから、少なくとも設計重心はもう少し高いのだろうか。

なんにしても、105km/hとか108km/hでは遠心力によって横転することはないのだ。

いや、ニュースでは133km/hでは脱線しないと言っていたのだったか? 脱線と転覆とはちがうからね。脱線というのは車輪のレール内側に当たる部分につけられたフランジという出っ張りがレールに対する横への移動を押さえきれなくなってまさに「脱線」することだ。私には脱線の力学はわからないのでここでは考慮していない。ここで考慮しているのはあくまでも遠心力による横転である。


108km/hでこのカーブへ入ってきても横転することはない。しかし実際に事故は起きた。その原因はブレーキと電車構成だと私はにらんでいる。

電車だけでなく、自動車でも自転車でもそうだが走行中に速度が下がると車体の重心は慣性で前進しようとするので前輪に加重がかかり、後輪の加重が減少する。

さらに、この電車は207系7輌編成ということで動力車3台、無動力車4台の編成である。おそらく先頭と最後尾、そして中央(第4車輌)の3台に動力がついていたはずである。

これらの全車両に一様均一なブレーキがかかれば問題はない。しかし、これら3台の動力車が急ブレーキということで電磁ブレーキ(自動車のエンジンブレーキに相当する)を併用したらどうなるか。無動力車には電磁ブレーキはないから、電磁ブレーキの効いている先頭車輌はブレーキの利きの鈍い2台目、3台目の無動力車に押されたのではないか。

減速による後輪(後ろ側台車)の加重減少に加えて後続車輌によるプッシュにより、先頭車輌の後部台車は重力による抑えが利かず、遠心力によってカーブ外側へ横転しようとした。その動きによって先頭車輌全体が後部からねじれるように左へ横転し、後続車輌は先頭車輌を押し出しつつ脱線したのではないか。

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コメント

多分、高校の物理で習ったんだろうけどすっかり忘れてしまったのでよく分からないけど、専門家も脱線ではなく転覆と考えているようですね。新聞によると1両目の車体が浮き上がって2両目、3両目が追突していったところをみた目撃者も出てきたようです。しかしJR西日本を毎日のように利用している身としては、以前から過密ダイヤ+スピード上げすぎ、と思って安全性に不安があったので過当競争による人災という気がします。特にこの数年は頻繁に人身事故が起きてはダイヤが乱れるということを繰り返していましたから。

投稿: taki | 2005年5月 1日 (日) 11時18分

動力車の構成は2、3、5両目でした。どうやら横転したのは間違いないようですが、後の加重が減ってという当たりはよく分かりません。それにしても、これはどうやら人災のようで。最近JRの東も小さな事故は多いんですが、潔く遅れてくれます。それはそれでいいのかも。しかし、このJR西のダイヤ改悪とか、乗務員への嫌がらせとか、労働組合は何やってるんでしょうね?はっきり言いますが、労働組合に責任はない。労働組合にJR西の体制を是正する責任を押しつけるのはおかしいと思う。でも情けないよね労働組合。昔は労働組合が強くて、こんなダイヤは組めなかったはずだ。停車駅がひとつ増えたのに到着までの時間が同じでm最高速度を上げるなんて。組合が弱体化して、経営者がわが勝手なことを始めてしまっても歯止めが利かなかったのだ。繰り返していうが、これは労働組合の責任ではない。でも情けないぞ労働組合!! 労働組合はもう自分たちの生活を守ることしか考えていないんだな、それでも50秒遅れで自殺した運転士やその家族を守れなかったわけだし、今回の23歳の運転士も守れなかった。情けないぞ労働組合。そんな組合にどんな意味があるのというのだ。今回の事故は労働組合の責任ではないが、この事故を恥と考えて解散してしまえばいいのだ。

投稿: picks-clicks | 2005年5月 3日 (火) 00時58分

事故車には勤務地へ向かうJR西日本の運転士2名が乗り合わせていたのだが、事故後にも救助活動を行わずに勤務地へ向かったという。でもこれはこの2名の運転士を責めることはできないだろう。彼らにとっては緊急時の処置について規定がないのなら勤務が第一なのだから当然勤務地へ向かうはずだ。人道的判断に基づいて、規定されていないことを行うことをJR西日本が許容しない体質なのだから、これらのJR運転士には全く落ち度はない。

投稿: picks-clicks | 2005年5月 4日 (水) 11時36分

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