ねじまき鳥で悩む
「海辺のカフカ」を読んだのをきっかけに村上春樹を乱読してきた。「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」、「やがて哀しき外国語」、「夢で会いましょう」と読んできて、今朝「ねじまき鳥クロニクル」を読み終わったところだ。
今まで読んだところまでの印象として、まず村上春樹ってジャズだなぁ、と思った。ジャズ喫茶を経営していたという経歴からも十分予想されることではあるが、小説としての作品にはいつもジャズと共通するものがあって、それは「説明責任がない」ということだ。常にアドリブしているみたいだ、と言い換えてもいいかもしれない。
「ありえないだろ~」みたいな話もけっこうあるのだが、それを気にさせないというか、ありえないながらもなんだかツジツマがあっているというのか、説得力があるというのかそれが作家としての力量なのか、とか。
村上作品を読んでいてもうひとつ思ったことが「私には上品すぎる」ということだ。何のことを言っているのかというと、つまり「カタルシスが無い」っていうかな? 私にはもうちょっと下品に「だだだっ、ずきゅーん、ドッカーン」とか「やったーっ」というのがあってもいいな、とか思ってしまうわけだ。私が期待するよりも芥川賞的というのかな。
ジャズでいうと例えばファンキーとクールという分類があって、私の理解ではつまりやたらノリのいいのがファンキーで、それを斜(ハス)に構えてみるのがクール、じゃないのかと思うのだが、村上春樹は明らかにクール派だと思う。
例えばこんな感じで隙間を作って「さぁ突っ込んでくれ」というリフ(この譜面の上段)があったとして、それに下段のように「ツッコむ」のがファンキーだとすると、クールなひとはこういう挑発に乗らずに淡々と自分のペースでフレーズを奏でる、と。
そんなわけで、これまで読んできた村上春樹を振り返ってみる。「海辺のカフカ」と「世界の終り」はもうすでに書いた。
■夢で会いましょう
「逢いましょう」じゃなくて「会いましょう」なんだなぁ。糸井重里との共作で、エッセイをほぼ交互に書いたもの。でも、糸井の方がつまらなくて、読みたくなかったので糸井の分は飛ばして読んだ。
それぞれのエッセイは最後に(m)と(i)というふうにどちらが書いたかを示すマークがついている。マークを見なくても読めばどちらかというのはわかるのだが、糸井のを読んで頭の中を乱されるのが嫌なので、予めページを捲って糸井のにはバッテンをつけておいた、そうやって村上の分だけ読んだので時間の節約になった。
内容はまぁ、書きなぐりっぽい感じだったかな。
■やがて哀しき外国語
エッセイなので読みやすく、また作品によく見られる「説明する責任はないもんね」というスタンスがないので、ストレスがない。村上のバックグラウンドがわかって面白かった。
■ねじまき鳥クロニクル
これはやはり面白かったなぁ。もう一度読み直してもいいくらいだ。でも最後は女の子の手紙で終わっても良かったのではないだろうか? 海辺のカフカもそうだったが、終盤になって出版社の干渉があったのではないかと勘ぐられるような乱れがあるんだけど。
で、ちょっと村上が続いたのでしばらく休んで、ジャズを題材にした作品と、デビュー作の「風の歌を聴け」、それから1Q84が文庫になったら読んでみようと思っている。
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コメント
亀レスですが:
村上龍の「共生虫」なんかどうですか。村上春樹よりは「だだだっ、ずきゅーん、ドッカーン」かな? TBしましたところにちょっとだけ感想あります。
投稿: taki | 2010年4月 2日 (金) 01時34分
村上龍は、私もよく読みましたよ。でも、村上春樹をジャズだとすると村上龍はロックのような気がします。なんだかいちいち荒っぽいんです。そこが醍醐味という読み方も出来なくはないですが。
で、「共生」がねじまき鳥を踏襲してるんですか? この本は読んだことがなかったので、チャンスがあれば読んでみようと思います。ありがとうございます。
ところで、村上春樹が神戸高校出身だというのはご存じでしたか?
投稿: Picks Clicks | 2010年4月 2日 (金) 22時02分
そうですね、私の4年くらい先輩です。
そうえいば、休止したBlogに「ノルウェーの森」についてグダグダと書いてました。忘れてた。
今読むと同じ学校だということを鼻にかけているような嫌味な記事なので・・・。
小説には高校のことが出てきて、それがどこか頭に浮かんだりするみたいなことを書いたんですが、村上氏はあの高校はあまり好きではなかったみたいな気がします。
共生虫がねじまき鳥を踏襲しているかどうかは私の勝手な思い込みなのですが、まぁ、面白かったです。
投稿: taki | 2010年4月 2日 (金) 23時26分