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2010年9月30日 (木)

軍事スリラーのディテイルに悩む

ジェフ・エドワーズは元軍人の小説家で、湾岸戦争にも参加したりした人らしい。そんな人が自分の経験(だけではないだろうが)を元にして軍事スリラーを書いている。処女作は「U307を雷撃せよ」という、クライブ・カッスラーふうのタイトルを持った小説だったが、これは面白かった。面白かったのでつい最近にも読み返してみたくらいだ。

Delta3そのジェフ・エドワーズの第二作「原潜デルタIIIを撃沈せよ」という、これまたクライブ・カッスラーふうの、なんでまたいちいち命令形だよ? というタイトルの上下二巻を見つけたのでまた読んでみたわけだ。これも面白かった。

前作では原題「Torpedo(魚雷)」のとおり、魚雷に関する蘊蓄が架空の既存の書物からの引用という形で語られて、読者の理解を助けるという形になっている。第二作でもその手法は継承されていて、ICBM(大陸間弾道弾)に関する蘊蓄が語られる。これは物語を理解するために必須な知識なので、飛ばして読んではいけない。

物語のパターンも、居つくかの部分で前作を継承しており、かといって全部が焼き直しと言うわけでもなく、新しい試みも取り入れられている。どうもディック・フランシスから学んだのではないかと思われる「脇役が成長する」ということが再度ストーリとして描かれる。まぁ今回の場合、「成長」というのか「変革」というのか、一概に成長とは言えないような気もするけれども。

主人公は前作と同じステルス巡洋艦タワーズのボウイー艦長で、ロシアから突然独立を宣言したカムチャッカ共和国の大統領が核弾頭を積んだICBMごと原潜を確保して日米ロシアを脅迫にかかったからさぁ大変。何とかしてタワーズでこの原潜を阻止しないといけない。そこへ民間人チームが新兵器になりそうな装置を持って参加して、という話。

話がカムチャッカとか北太平洋なので、アメリカ海軍の横須賀基地も話には出てきて、横須賀のホテルの宿泊した民間人が日本のTV-CMをみて「なんじゃこりゃ?」という話に3ページ半程も割いていたりする。

引用する。

「わかった・・・ええと、そうだな・・・まず最初は地球の光景から始まる。宇宙から見た地球だ。カメラが徐々に近づいて、日本列島が見えてくる。空高くの、雲の隙間から。その後カメラが雲を通り抜けて、大きな都市が見えてくる---東京かもしれない。

カメラはさらに近づき、ビルのてっぺんを過ぎて、最後に小さな美しい茶畑が見えてくる。畑は巨大なガラスの摩天楼に挟まれている。畑の真ん中に黒いヨーロッパのスポーツセダンがある。やたらとしゃれた感じのが。サーブだったかもしれない。よく思い出せないが。そのスポーツセダンのボンネットに、背の高い黒髪の女がしなだれかかっている。ヨーロッパ人かアメリカ人か、どこまでも伸びていきそうな長い脚をした女だ。太ももまでスリットの入ったストラップレスの黒いイブニングガウンに、黒いスチレットヒール、そして<キャットウーマン>の黒い耳が付いた小さなヘッドバンドををつけている。

ナレータが分速1マイルで日本語をまくし立てているあいだに、カメラの外にいる日本の小さな女の子の合唱団が英語で例のCMソングを歌うんだ。”キティ・ポーズ・・・ライク・サンタクロース、バット・キティ・ポーズ・・・”」

こんなCMを私は知らないが、ひょっとしたら知っている人がいるかも知れない。訳者の解説に何か書いてあるかと思ったが、特にこの件については触れていない。作者の創作だとか、なにかの捩りであるとか、日本の読者にチョトくらいサービスしてくれてもよさそうなのに。訳者は作者と連絡が取れなかったんだろうか?

もう一つ気になったのが、どうも原稿が飛んじゃってるんじゃないか、という点。第50章ではブツを簡単に発見したように描いてあるんだけれども、そこんとこをもうちょっと詳しく、というのが他にもあったような気がする。民間の測定機器がどれほどステルス性を持っていたのか、とか肝心なときにASROCで何とかできなかったのか、とか。

調べてみるとMK44魚雷は射程が約7km、ASROCなら12Kmくらい飛ばせるので、役に立ったんじゃないかと思うんだが、積んでなかったからっていう落ちかもしれんが。

そうそう、もう一つ原子爆弾の動作を説明するときに訳し間違いなのか96本のケーブルの長さが「1ナノメール以下」(上巻278ページ)ってことはないはずで、それは100歩ゆずってもナノメートル単位の誤差、おそらくはナノセコンド単位の伝搬遅延誤差という話だと思うのだが、ここでも作者に確認が取れないまま訳しちゃったんじゃないかという気がする。

まぁ何にしてもこの作者のストーリーは容赦無いので、アッと驚く展開になってくるのだが、ワクワクとした面白さは満載といえる。次作はもう出ているんだろうかと楽しみなところだ。

[ジェフ・エドワーズ著、棚橋志行訳]


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