ピタゴラス音階で悩む
このエントリは、当初「非ピタゴラス音階で悩む」となるはずだったが、非ピタゴラス音階に取り組む前にピタゴラス音階の方をまず調べようとしたらそちらのほうが面白くてなかなか非ピタゴラス音階で悩むまでに行かなかった。なので、まずは「ピタゴラス音階で悩む」ことにした。
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ペンタトニック・スケールのことを書いていて思い出したのだが、まだインターネットというものが今ほど普及しておらず、「パソコン通信」なんてものが一部の人間に愛好されていた頃に、非ピタゴラス音階のことなどで議論していたことがあった。
非ピタゴラス音階というのはつまりオクターブが12個の半音から成っている音階をピタゴラス音階と呼んで、それ以外に音階はありえないのか?ということを議論していたわけです。
まず、1オクターブで周波数2倍というところから疑い始めて、「周波数3倍で1オクターブ」ということを考えてみたが、いろいろやってみてもこれはどうも無理そうだったので、オクターブは周波数2倍ということで我慢して、音階をいろいろ試してみようかということになった。
まず、12音階というものがあるので、12の約数である2と3を約数として持たない、5,7,11,13,17,19というあたりが候補にのぼったが、11と13は12に近すぎるということでスキップし、19も17に近いよね、ということで5,7,17というあたりを調べてみようということになったんじゃなかったと思う。
当時はまだコンピュータのハードディスクも高価だったので、残念ながらこれらの記録は残っていない。ひょっとしたら誰かがフロッピーディスクに持っていたりするといいのだが、そんなのを集めようとすると、また著作権とか何だとかうるさいことになるんだろうな。
で、当時はそんな変則的な音階を出せる技としてはフレットレス・ベースくらいしかなかったし、ネットワークを通してそれを他の人に聴かせるということもできなかったのだが、今ならいろいろと方法があるのでこれを展開してみようかと思う。
例によって長々とだらだら書く前に結論から言うと、ピタゴラスの12音階というのはよく出来ていて、何がいいかというと音階の中で周波数が簡単な整数比に近くなる組み合わせが多いので、和音を作りやすいということが言える。他の音階を平均律で構成すると、簡単な整数比になる組み合わせがとても少なくて和音を構成しにくいのだ。
しかし、やはりここは非ピタゴラス音階の話を擦る前にメジャーな「ピタゴラス音階」について押さえておかないといけないような気がするのでまずその話から始める。
ピタゴラス音階というのはつまりいわゆるドレミファソラシドだが、この7音がオクターブ上に均等に展開された12個の半音の上に展開されている。
ド | レ | ミ | ファ | ソ | ラ | シ | ド | |||||
● | ○ | ● | ○ | ● | ● | ○ | ● | ○ | ● | ○ | ● | ● |
ピタゴラスはこの12音を「2:3の周波数比」で算出したらしい。これは「ペンタトニックで悩む」での話の展開に偶然一致している。ピタゴラスは私が説明したような気柱の共振ではなく、弦の振動からヒントを得たらしい。
つまり、ピタゴラスはある音を基音にしてその1.5倍の周波数を次々につくっていき、オクターブを超えたものは元のオクターブに引き戻すことを繰り返してお12音階を作り上げたようだ。周波数を1.5倍するということを12回繰り返すと、その数はほぼ2のべき乗になり、つまりあるオクターブで元の基音と重なるのだ。
だから、ピタゴラスの音階ではそれぞれの音のどの組み合わせをとってもその周波数を整数比で表わすことができる。
基音をAとすると、そこから5度ずつ音程を上げていって(次のオクターブに上がってしまったら周波数を半分にして元のオクターブに戻す)次のような順番で音程を決めていったらしい。当時A~Gという音名があったとは思えないので、何か別の表記だったんだろうけど。
A→E→B→F#→C#→G#→D#→A#→F→C→G→D→A
ここで、一周回ってきた基音での誤差を調べてみると、
1.5×1.5×1.5×1.5×1.5×1.5×1.5×1.5×1.5×1.5×1.5×1.5=129.746337890625
129.746337890625÷2÷2÷2÷2÷2÷2÷2÷2÷2÷2÷2÷2=1.0136432647705078125
ということで、周波数を1.5倍にすることを12回繰り返すとほぼ元の音に戻ってくるが、その誤差は1.4%であることがわかる。音が半音違うと周波数は1.0596倍(2の1/12乗;完全に均等割にした場合)になるのでこの誤差は半音の1/4の誤差になる。これは音感の良い人なら十分に違和感を感じる誤差である。
12音から7音をどうやって選んだのかはよく知らない。5度環の中で下に強調したような音列を選ぶことによって、響きの良い完全5度の音程を保った7音を選んだのかもしれない。
A→E→B→F#→C#→G#→D#→A#→F→C→G→D→A
こうやってピタゴラスによって得られた音階は純正調と呼ばれたりもする。純正調では音階のすべての音の組み合わせが整数比で表される反面、それぞれの音の音程差は一定ではない。それではいろいろと不都合があるので、現代の楽器は1オクターブを均等に分割した平均律で作られている。平均律では周波数比が無理数(分数で表せない実数)になるので、周波数比は整数になりえない。純正調で作られた楽器では移調すると相対的な音程が変わるが、平均律では移調しても相対的には変わらない。
ギターを調弦するときにハーモニクスで合わせる人がいるが、あれは純正調に対しては正しい方法だが、ギターは平均律で作られているので、ハーモニクスで合わせるとその都度2Cent高くなる。まぁ2centというのは半音の1/50なので誤差の範囲だけど、これは覚えておいたほうがいい。
Aを起点とした純正調と平均律の周波数を比較してみるとこんなふうになる。誤差の「Cent」は平均律の半音の音程差を100とした場合の誤差である。先にも書いたが、22Centというのは耳の良い人ならわかる誤差だ。
音名 | 純正調 | 平均律 | 誤差(比) | 誤差(Cents) |
A | 1 | 1 | 1 | 0 |
1.067871094 | 1.059463094 | 1.007936095 | 13.2 | |
B | 1.125 | 1.122462048 | 1.002261058 | 3.8 |
C | 1.20135498 | 1.189207115 | 1.010215097 | 17.0 |
1.265625 | 1.25992105 | 1.004527228 | 7.5 | |
D | 1.351524353 | 1.334839854 | 1.012499251 | 20.8 |
1.423828125 | 1.414213562 | 1.006798522 | 11.3 | |
E | 1.5 | 1.498307077 | 1.001129891 | 1.9 |
F | 1.601806641 | 1.587401052 | 1.009074952 | 15.1 |
1.6875 | 1.681792831 | 1.003393503 | 5.7 | |
G | 1.802032471 | 1.781797436 | 1.011356529 | 18.9 |
1.8984375 | 1.887748625 | 1.005662234 | 9.4 | |
A' | 2.02728653 | 2 | 1.013643265 | 22.7 |
アカペラのコーラスの場合などでは、ひとは美しい響きを求めて音程を調整するので、純正調で歌っていることが多いらしい。その場合には5度の音程を求めて音程の基音が動くので、歌い始めと歌い終わりで音程が違ってしまうことが多々あるとか。しかしそれでも、それは間違いとは言えない。
では実際に純正調と平均律を聞き比べてみよう。この違いはわかるものだろうか? また平均律では和音の響きが悪いとされているのだが、それでは純正調の和音はどんなふうに響くのだろうか?
まずは純音(正弦波)でAを基音とした長和音を聞いていただこう。
「puresinace.mp3」をダウンロード純正調 A-C#-E
「avgsinace.mp3」をダウンロード平均律 A-C#-E
違いがわっかるかな? わっかんねーだろーな~。
次は同じくAをを基音とした純正調と平均律でC-E-G(ドミソ)を聞いていただこうか。先の例を作って反省したので、和音にしてから長くひっぱってみた。
「puresinceg.mp3」をダウンロード純正調 C-E-G
「avgsinceg.mp3」をダウンロード平均律 C-E-G
違いがわっかるかな? わっかんねーだろーな~。
もっとはっきりと違いが分かるかと思ったのだが、意外にはっきりしなくてがっかりなのだ。ただしそれは私だけの問題かもしれず、皆様におかれましてははっきりと違いが分かったりするのかもしれない。そのへんは忌憚のないコメントを頂きたいところです。
で、実際の音楽というのは、こんな味気ない純音ではなくて、倍音を多く含んだ楽器音なわけで、それだとどうなるか?と。 いやいや、これは手間をかけてやってみましたよ。あんまり手間をかけたので、自分でも何を作ったんだか忘れちゃったくらいだ。基本はピアノの音とビブラフォンの音でいくつかの和音を純正調と平均律とでつくってみたわけだが、どんな内容だったかよく確かめないで書いてしまう。
「Pure8.mp3」をダウンロード純正調によるいくつかの和音(ピアノ)
「Avg8.mp3」をダウンロード平均律によるいくつかの和音(ピアノ)
ああ、少し思い出したのだが、この時にはCを基音とした純正調で考えていたので、先に掲げた周波数とは違っています。まぁ細かいことはどうでもいいですね。
今度は同じことをビブラフォンの音でやってみた。平均律のあとに純正調で同じことをやっている。
「avepurev.mp3」をダウンロードビブラフォンの音による平均律と純正調の比較。
いろいろとつくっていくうちに面倒になったのか、あまり違いがわからないもんだからやけになったか、平均律と純正調、ピアノとビブラフォンをひとつのファイルにまとめてしまった。同じ音名の音を、平均律→純正調の順に繰り返しています。
どうですか?違いはわかりますかね? 私はどうも違いがわからないので、今後純正調のことは気にしないことにする。
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