元軍人の小説で悩む
米ソの冷戦が終わってほとぼりが覚めた頃から、引退した軍人が自分の専門分野をネタに小説を書いたりなんかするようになってきた。それまでの軍事スリラーといえば、ベトナム戦争の頃は従軍ジャーナリストが書いたものだったり、マイケル・クライトンのように小説家が調査に調査を重ねて書き上げたり、というものが多かったように思うのだが、冷戦終結後は実際に軍隊で働いていたいろんな軍事専門家たちが、それぞれの専門を活かして書いた小説が目につくようになってきた。
ある人はイージス技術にスポットを当て、ある人は原子炉をテーマにし、ある人はソナーマンを主人公にし、ある人は魚雷を擬人的に扱い、という具合なのだが、飛行機と潜水艦好きの私としては、例えば潜水艦に関していろんな角度から専門家がうんちくを書いてくれるのは大変楽しい。
というわけで今回も飽きもせずに「原潜を救助せよ」というえらくストレートなネーミングの潜水艦モノを読んだわけだが、この本の作者ジェイムズ・フランシスは潜水医学の専門家だ。つまり潜水艦の中で人体が遭遇する様々な生理的な問題を熟知しているわけで、そんな作家が沈没した潜水艦からの脱出というテーマを描くわけだ。だから潜水艦同士の探り合いのような事は殆どなしだ。
沈没して深度150mに沈底している潜水艦から外へ出る方法はあるが、外へ出た途端に大気圧の16倍という水圧が脱出者を襲う。そんな環境を通過してしまうと、いわゆる潜水病にかかってしまうので、水面に出たら直ちに高圧治療室にはいって徐々に減圧しないといけない。しかし、生存者は100名近くいるので減圧室にはそんなに容量がない。だから、生存者は水圧から守りながら脱出させないといけない。さてどうするか?
150mくらいまでの深度なら、本来そんなに苦労することはないはずなのだが、冬の北海でしかも暴風雨の中での救出作業ということで緊迫感を出している。回想とはいえ、ロマンスを入れるのは勘弁して欲しいものだが、まぁそれも薄口なのでよしとしましょう。
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