映画・ドラマのプロットで悩む
一組の男女がいた。女は男と死ぬまで一緒にいたいと願っていたが、男のほうは一刻も早く女と離れたいと願っていた。次の瞬間、第三次世界大戦の始まりを告げる核爆弾が二人を直撃し、ふたりの願いは同時に叶えられた。
うろ覚えだが、これはフレドリック・ブラウンというSF作家のショートショートである。当時は冷戦時代で、第三次世界大戦の勃発するという設定が全く自然なものだったのだ。
私は中学高校とこのブラウンという作家が大好きで、本当に読みあさっていたのだったが、読み進んでいくうちにあるパターンに気づくようになっていた。「プロット(あらずじ)には苦労しないね」と豪語していたこの作家だが、そのストーリーの作り方がわかったような気がしたのだ。
私が思ったブラウン風のプロット作りというのはこうだ、つまり、ありえないようなシチュエーションを設定して、そこへ向けていろんな話をつなげていく、ということだと思うのだ。
冒頭に上げた例で言うと、「お互いに相反すると思われる願いが同時に叶えられる」ということだが、ブラウンの他の例で言うと「飼い猫が飼い主に”忘れちまいな!”という」とか「美女と一夜を共にする(ただし微動だにせず)」とか「HEAVEN(地名)に入る」とか。あと(英語の)駄洒落というのも多々ある。
そういうターゲットが決まると、そのターゲットを成立させるための状況を逆算していくことによってぜんたいのストーリーが形成される。…のではないか、と思うわけだ。
で、なんでこんな話をしているのかというと、三谷幸喜の映画「ステキな金縛り」を見て、三谷幸喜もそういう手法を使っているのではないか? と思ったからだ。ネタバレになるかもしれないので詳しくは書かないが、竹内結子が「私を殺したのはこの人ですっ」というシーンがあって、「ははぁ、これが三谷幸喜のターゲット・シチュエーションなのだな?」と思った次第。
「私を殺したのは…」ということだから竹内結子はその時点で亡くなっているわけで、損な人がそういう発言をするということはあちらの世界とこちらの世界をつなぐものが必要になる。そのつなぎ目が西田敏行扮する落武者(このあたりは予告編で出てくるからネタバレにはならないよね)ということなのだと思う。
しかし、この映画は色々突っ込みどころがあって、三谷がさんざん悩んだというエンディングは失敗だと思うし、導入部も私は受け入れられなかった、というか、夢なのか現実なのか判然としなかったのだな。
で、そういう目で古畑任三郎シリーズをみてみると、「ハはぁ、これがターゲット?」とか思い当たる部分が見えたりして。
しかしひょっとして、映画とかドラマってみんなそうやって作るのかな?
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コメント
村上春樹氏は、書き始めると頭の中で登場人
物達が勝手に物語を作り始めるので、それを
文章に書き起こす云々と何かに書いていました。
フォーンブロワーシリーズなどを書いている
イギリスのC.S.フォレスターは、主人公に
困難な状況を与え、それをどのように解決して
行くかを考える。
SF作家で「宇宙大元帥」の称号を持つ、テレビ
番組プロジューサの野田昌宏氏は,登場人物が絵
になるシーンを考え、そのシーンから前後の物語
を考える。
アニメの巨匠宮崎駿氏もストーリーの要所と
なるイメージを絵に書き起こし、そこから絵コ
ンテを切り始める様です。
作家によって作方は色々あるということで
すね。
投稿: ををつか(をたくな講師) | 2012年2月26日 (日) 22時40分
出かける間際に書いたので、言葉の足りない所があるんですが、もちろん作家によっていろいろなやり方があるんだけど、私はブラウンみたいな仕掛けの、ココロのこもっていない小手先のストーリーが、わりと好きだ、っていうところを強調したかったんで。
で、出かけてどこへ行ったかというと、「ドランゴン・タトゥーの女」を見てきました。これは面白かったです。買ったポップコーンを「こんなの食ってる場合じゃない」という感じで放り出してみてました。デビッド・フィンチャー監督なので、刺激の強い画像がいろいろありますが、そういうのに平気な人にはお勧めです。
ついでに言うと、「ステキな金縛り」も私には面白かったんですよ。
投稿: Picks Clicks | 2012年2月27日 (月) 00時15分