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2014年5月 1日 (木)

フェリー転覆で悩む

4月16日、韓国のフェリー「Sewol」が沈没し、300名余が死亡行方不明となっている。亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、行方不明者の無事帰還を望みたい。

この船は日本で建造され、18年使用されたあとで中古船として韓国へ売却された。購入した船主は後部のオープンデッキを改造して客室とした。この改造によって239トンの重量増加となった。当時の排水量6800トンに比べれば大した増加ではないとも言えるが、増築したのが船体後部の高い位置であったため、この工事によって重心位置が51cm高くなった。

この改造に対して韓国の船体を管理する部署は条件付きで承認した。その条件とはバランスをとるために一定量(詳しい値は今わからない)のバラスト水(船体の下部に積載される)を必ず積むこと、ということであった。

しかし、この条件は船を運用する管理部局には伝わっていなかった。

2013年3月15日から運航を開始したSEWOL号は常習的に過積載を繰り返していた。試験航海の1回を除く157回の航海においてSEWOL号は過積載の状態で運用された。

なぜ過積載による運用が可能であったかというと、つまりは港でのチェックが甘くて「満載喫水線が海面上に出ていればOK」というものだったからだ。

過積載すると喫水線が下がってしまうので、それを防ぐためにバラスト水が捨てられた。そのためにSEWOL号は常に不安定な状態で運航されていたのだった。

4月16日も、何事もなければそんな不安定な状態でなんとか目的地である済州島へ到着できるはずだった。しかしこの時はそうは行かなかった。

事故の1ヶ月前にも操舵装置の変調は検知されていたらしい。一等航海士が「1月前にもそう出したら不安定になったことがあった」と供述しているらしい。

実際、操舵装置に関する修理要請が稟議され、船長ならびに社長までの決済がおりていたとの報道がある。だが実際に修理が行われたかどうか、行われたとすればどんな修理であったか、ということは報道されていない。

事故はSEWOL号が右へ急旋回したために起こった。この時操縦していた三等航海士(26歳、女性)は「5度転進と指示したのに舵は大きく右へ切られた」と言っている。また操舵士は「私にミスがあったかもしれないが、舵はいつもより大きく回った」と供述している。あとで、三等航海士は「左へ」と言ったのに右へ舵が切られた、との報道もあった。

濃霧のために出港が2時間半遅れたので(予定:前日18時30分;実際:前日21時)、SEWOL号は本来の航路ではなく、近道をして島々の間を抜ける航路を取っていた。当初「座礁」と報道されたのはそのためかとも思われるが、この領域には明確な暗礁はなく、むしろ速い海流が航海の難度をあげていた。

この三等航海士はこの会社での経験が4ヶ月と浅く、本来ならこの難しい区間を操縦するはずではなかったのだが、操縦の受け持ちは4時間単位で交代することになっており、濃霧のために出発時刻が遅れたことでこの区間を受け持つことになったということだ(突っ込みどころあり:最後の2時間半は誰が操縦することになっていたのだ?)。

Sewolsanken

SEWOL号が急に転進したため、積み荷が崩れ、また大型トレーラー3台をも含む積んでいた車両も船倉内で左側に寄ってしまった。荷物などはロープでくくられていただけであり、車両は固定されていなかった。ロープは荷崩れにより簡単に切断されたものと思われる。車両がどうなったかはわからない。

荷崩れのためか、船内に「ドーン」という音が響き渡ったという。この辞典から船は左へと傾きだし、本来なら持っている復元力が全く働かず(重心が高い上にバラスト水が少なく、燃料の大部分を使っており朝食のための飲料水も使いきって、もさらに荷崩れという状態)、転覆に至った。

事故が起こった時、船長は自室に「用事があった」と供述しているが、実は携帯電話でゲームをしていたという目撃談もある。船長は事故直後に艦橋へ船員を集めて脱出するわけだが、この時になにか口裏合わせをしたのではないか?というのは私の勘ぐり。

その後の救助が連携を欠き、救えたはずの多数の命を失うことになるのだが、そこは割愛する。

だからこの事故の原因というのは「整備不良で重心の高くなった船が、やはり整備不良で変調をきたした操舵装置による急な転進で転覆した」ということになる。

遠因としては船体の改造を承認する部署、実際に運航するときにその船を管理する部署、そして船の荷物を管理する部署がそれぞればらばらで連携がとれていないために過積載な運航を見逃していた、ということに尽きる。

船を運用していた会社はどうもこの船の不安要素を知っていたらしく、今年の2月28日に中古船として売りに出された(売却物件として登録された)ということが報道されている。SEWOL号は約11.5億円で購入され、改造に3億円ほどをかけたとされているが、中古船として売るとなるとその価値は10億円未満と推定されている。

損失を出してまでドル箱である済州島航路のスター級フェリーを売りに出すのは、さっさと売ってしまいたい理由があったのではないか、と考えられてしまう。

また、SEWOL号を所有する清海鎮海運は同等の積載量を持つ「オマハナ」号も過積載で運航していたものと見られ、SEWOL号とともにその責任所在が問われることになるだろう。

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コメント

転覆の最大の原因は、積荷の固縛をキチンと行わなかった事。死者がおおいのは、避難誘導をちゃんとしなかったこと。これに尽きるんじゃないでしょうか。

投稿: ををつか | 2014年5月 1日 (木) 17時14分

「しっかり固縛できていれば」というのはそのとおりなんですが、全速力で航行中の急転進による遠心力を計算出来ないのでなんとも言えないですね。

投稿: PicksClicks | 2014年5月 2日 (金) 06時56分

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