底なし船で悩む
船の進行を妨げる走行抵抗には造波抵抗と(水との)摩擦抵抗がある。これらの走行抵抗は大きな船では燃費を悪化させる重要な要素となる。
摩擦抵抗を減らすために気泡を発生させるという方法をTVか何かで見たのだが、気泡はどんどん流れて行ってしまうし、船体と水との間をすべて気泡で覆えるわけでもないので、その効果はそれほど期待できないのではないかと思った。
それよりも、いっそ船底の水との接触面を全部気体にしてしまえばよい。つまり船底を底のない空洞にして、その代わりに上部構造は密閉することによって浮力を維持するのだ。
お風呂で桶を裏返しにして、つまり開口部を下にして浮かべると、しばらくは浮いている。浮いている間はいかにもお湯との摩擦抵抗がないような感じですいすいと動く。でもすぐにひっくりかえってしまう。復元力がないのだ。
復元力をつけるには桶の内部に仕切りをつければよい。浮力槽がひとつだと傾いたときに復元しようという力が働かないが、浮力槽が複数あると傾いた側の浮力槽が深く沈む(つまり水面下に沈む気体量が増える)ことによって復元力を発生することができる。
テーブルを安定して立たせるためには少なくとも3本の脚が必要なように、この底なし船にも安定な浮力を得るためには最低3個の浮力槽が必要なはずだ。話を簡単にするために底なし船体を前後左右に区切って4つの浮力槽を持つような構造を考えてみよう。
船底に摩擦が発生しないので、船の構造としては平べったくて喫水の浅い構造がいいはずだ。船体側面の喫水線以下の部分ではやはり摩擦抵抗が発生するので、この部分はできるだけ小さくしたい。
一方で波の影響を考えると、内部喫水線から浮力槽下端までの距離は波に対するマージンとして大きくとりたい。ちょっと図にしてみようか。
この図は船の進行方向に対して垂直な平面の断面図である。というか船の前半分と後ろ半分を断ち切った断面と思ってもらえばよい(前後のちょうど真ん中だと浮力槽を前後に分ける隔壁があるはずだが、そこはちょっと見逃してもらって)。
こういう底なし船は、船底が剛体でないので、例えば波による突き上げなどをかわすのに都合がよい。上の図で右側から波が来たら、まず右側の浮力槽の空気を抜いて波をかわし、次いで右側の浮力槽の浮力を回復しつつ左側の浮力槽の空気を抜けばよい。
浮力槽の空気を抜くには図の上側に設置した弁を開放すればよい。浮力槽に空気を入れるにはポンプで入れてもいいし、圧縮空気で入れてもいい、エンジンの排気を使うこともできるし、緊急の場合には爆薬を使ってもいい。
波の動きは早くてもせいぜい秒単位なので、事前に波が来ることを感知すれば自動的に対応することもできるだろう。
波が高い時には浮力槽のマージンを大きくして(つまり浮力槽下端を深く沈めて)波をかわす余力を大きくし、波が小さく穏やかな場合にはマージンを小さくして船体側面の摩擦抵抗を低くすることもできる。
さらには、浮力槽の空間を使って、普段は水中に入れたくないようなものを格納しておくことができる。例えば接岸時にあると便利なサイドスラスト機構や緊急回避用の操舵装置・制動装置、造波抵抗をキャンセルするための機構など。
太陽光を十分に受けるような状況では浮力槽の空間に多量の水蒸気を含むことが期待できる。この多量の水蒸気からは容易に真水を取り出すことができるから、例えば船でなくとも海上農園の基盤となるような浮漂体を作ることもできるんじゃないだろうか。
でも、こんなこときっともう誰かがやっているんだろうなぁ、と思って調べてみたのだが、意外に見つからない。唯一、「瀬戸内海の造船所が底のない船を作ったことがあるらしい」という話があったので、該当するらしい会社の特許なども調べてみたのだが、発見できなかった。特許検索にもかからない古い特許があるんだろうか?
(とか言いつつ特許出願中)
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