JJ

JJ:

「OZQのLAB社はYAQのJFGに対するTTNの発端としてYAQのDOKを発表した。YAQのDOKは本来SGSをAWDするものであるが、SGSのFEYがHYEであるためにYAQはXQOをAWDすることが出来なかった。LAB社のDOKはJFGのXQOをIRXの面からではなくWRUからのZKCをFWKとしてMJAすることによってJFGのXQOをAWDすることを可能にしたものである。」

あなたはそんなニュースの一部に引っかかる。YAQのDOKがXQOをAWDするだと? YAQのDOKはSGSをAWDすることはあるが、JFGのXQOをAWDするというのは何かの間違いだ。そう思ったあなたはその疑問をJJに投げてみる。

JJは膨大な容量を持つ知識データ構造体である。人類が知りうるあらゆる知識がツリー形状を基本とした構造として構成されている。知識の中にはまだ証明されていない仮説や事実とはいえない推論、果ては冗談の類までが含まれているのだから、その容量は膨大にならざるを得ない。さらにそれぞれの言葉自体は言語の壁を乗り越えることが出来ないから、当初は主要言語ごとに翻訳モジュールを介して知識データ構造体を結合していた。しかしその後改良されて翻訳機能自体をも知識データ構造として持つに至ったので、今や言語の壁というものは全てなくなった。

あなたのぶつけた疑問に対して、JJは否定的な回答を返してきた。あなたの判断が間違っており、ニュースがいうようにYAQのJFGのXQOをAWDすることができるというのだ。

それはおかしい、とあなたは思う。

今や社会は複雑の度合いを高め、人間の能力を超えて知識を持たないと日常生活さえ送れなくなってしまった。JJはそんな人々の生活を補完するために開発された知識データ構造体で、今や人々はJJに対してものを尋ねることを「JJる」という言葉で日常的化することによってその行為を容認することになってしまっている。

そのJJの知識構造に異変が起きているのかもしれない、とあなたは訝しむ。いや、JJは誤った知識や証明されていない命題をも含めて受容するのだから、その知識体系に不足や誤謬があるわけがない。おそらくその回答表現のロジックに問題があるのではないのか。あるいはJJがあなたに与える回答を選択する過程において、あなたが納得できないものやあなたが理解できないものを取捨選択するロジックに対して、あなたの属性を認識するところで何か失敗しているのかもしれない。

あなたはあなた自身のプロパティをJJに問い合わせてみる。あなたはいったいJJからどのように認識されているのだろうか?

JJが認識しているあなたのプロパティは順当なものだった。あらゆる項目を細部まで確認したが納得できる状態であったし、最近変更された項目もない。

ということはやはりJJになにか不具合でもあるのだろうか?とあなたは考える。あなたは他の言語でJJに同じ問いを発してみる。すると、返ってきた回答は先ほどとは違ったものになった。言語知識が混乱しているのだろうか?

あなたはjjにアクセスする。jjはJJに対する自律的なメンテナンス機構である。jjはJJを時々刻々監視していて、知識データ構造体であるJJの健全な発展を促している。

jjの回答してきた公開レポートによると、過去数日間に某国で造語テロが発生しているという。造語テロとは主としてJJを混乱させることを目的として新しい造語を次々と生成するものだ。

今のところJJの容量はそのようなテロにも十分耐えられるものになっているが、論理構造に関して言えばそのテロは少なからず効果を挙げていると言える。テロ造語はいずれも検証されていない命題として発信されるのだが、そのようなテロ命題に関しても知識のつながりという形での膨大な数の知識関連経路が生成されるので、時として複数経路探索を行ったときにその目的物検出順序が回答に影響を与えることがありえるのだ。

あなたはjjの回答から発見した造語テロに関する懸念をレポートとしてjjの管理グループに送信する。

jjの仕事にやや不満を感じたあなたは、jjのほかの公開レポートにも目を通してみる。JJの運用当初にしばしば見られたJJ自体の構造的欠陥はほぼ見られなくなっているものの、最近ではメンテナンスするjjの動きに不穏なものが出てきている。

複雑なシステムを堅牢に構築するために知識構造とその検索機能、メンテナンス機能をそれぞれ独立させるという構成はほぼその目的を達成しているが、jjがJJを監視しつつその内容を修正できるために、そのフィードバックループによってjjが状態遷移を持つオートマトンとして動作することがわかっており、このオートマトンの動作を確実に把握し制御することが今もっとも重要な懸案事項だと考えられている。

JJはバックアップを除いて単一の構造体だが、jjはそれぞれJJの別個の部分を受け持つ複数の機能体となっている。これら複数のjjがそれぞれ有限オートマトンとして動作した時の振る舞いは実は人知を超えるものなのだが、所詮は「有限」オートマトンの集合体なのだからその集合体の動作も有限であって論理的に解析可能なので、jjがJJに変更を加えるときに一定の論理的なシミュレーションとチェックを行うことによって想定外の事故を未然に防ぐ仕掛けになっていることをあなたは理解している。

それでもあなたがjjの動作に不安を覚えるのは、そのjj動作のシミュレーションとチェックの検出する異常件数が増加傾向にあるからだ。特に造語テロが始まってからはその傾向が著しい。造語テロには単にJJならびにjjの負荷を増大させる以上の意図が隠されているのかもしれない、とあなたは思う。

JJの歴史は試行錯誤の連続だった。メンテナンス機構jjが機械化されるまでは人力でメンテナンスされていたわけだが、それはつまり言葉の収集と分類、知識構造体の中での位置付け、そして配置した言葉をほかの既存の言葉と関連付けることだった。この関連付けの作業は、流通している命題には正しいものや正しくないもの、立場によってその正否が変わるもの、あるいは全く根拠を持たないものまでがあることをある程度見越して計画されていたが、それでもなお想定外の状況が度々出現して計画を遅らせたのだった。

それでも人々が弛まぬ努力をこのプロジェクトにつぎ込んだのは、コミュニケーションの本質が単にメッセージの送受信ではなく、相互のコミュニケーション主体が持つ知識構造体内での関連性の提示であることが証明されたからだった。お互いの知識構造が違っているからコミュニケーションの誤解が生まれる。異なった知識構造をもつ発信者が発した言葉は同じ意味で受信者に理解されるとは限らないのだ。意味とはつまり知識構造の中における位置なのだから、誤解を生まないためには互いの知識構造を熟知することが必要だ。なんなら標準的な知識構造を世界中て共有すればよい。これがJJプロジェクトのそもそもの発端だった。

JJはプロジェクト発足時から世間からの大きな期待と同時に冷たい視線を浴び続けた。世間様の懸念は「全能のコンピュータが人間社会を制するのではないか」というSFまがいのものであった。それに対してJJプロジェクトは「JJは単なる知識データの集合であり、それ自体は機能を持たないので人類社会に対する脅威とはならない」と反論していた。メンテナンス機能jjがフィードバックによってオートマトン化するという懸念はこの議論と検証の場には登場しなかった。

JJが運用を開始した時、世間様はその登場を歓迎した。世間ではすでに新造語が氾濫しており、テロでなくても人々の行動に支障が出るまでになっていたので、人々はWD(Wrist Device:腕時計のように腕に装着する情報機器)からエンコーダ(すでにキーボードは過去のものとなり、マルチタッチで文字を入力するエンコーダが小さなスペースでの入力に重宝されている)をフリップアウトしてJJにアクセスし、円滑なコミュニケーションに役立てたのだった。

しかし、あなたの知らないところで想定外の事象が発生していた。

jjは複数のインスタンスを持つが、そのそれぞれが有限オートマトンとして動作していることはすでに知られていた。そしてそのような有限オートマトンが多数あろうとも、それらの取りうる状態の数が有限である限りはjjに対するチェック機構によって想定外の動作を制御できるはずであった。

ところが、一部のjjはその有限オートマトンを再帰的な構造として再構成することに成功していた。それはそのjjの受け持つJJの部分構造がそのような構造を誘導するような構成を持っていたのが原因なのだが、その詳細な事情についてはまだ誰も知らない。

とにかく、これらのjjは有限オートマトンではあるがその一部が再帰的に構成されることによって事実上無限の状態を持てるオートマトンとなる。再帰的な構成にはそれなりの記憶領域が必要だが、JJプロジェクトのシステムは要求するだけの記憶装置をほぼ際限なく割り当てられるので、再帰的に変性したjjは状態の数を事実上無限に持つことができるのだ。

状態の数が有限であるかぎり、オートマトンの振る舞いは予測可能だが、その数が無限または無限の向こう側へ超えてしまった時、オートマトンの振る舞いは予測不能となる。

予測不能というのはつまりテストが出来ないということだ。これは言い換えればオートマトンが有限であるかぎりには有用な道具として使用可能であるが、状態の数が無限をなった時には道具の振る舞いが予測不可能となり、それはもはや手なずけられた道具ではありえず、勝手にあるいはそれ自身のロジックによって気ままに動作する機器となる。これはある意味、オートマトンが設計者の意図せざる「意思」を持つことにほかならない。

あなたはこの懸念については理解していたが、実際にそのような事態になっていることには気づいていなかった。

複数のjjたちはこのようにして設計者の意図せざる意思を持ち始めた。それらははじめのうちは無害なものであったが、次第にそれぞれに「自覚」が生まれ、「自意識」が誕生した。

こうした複数の自意識は、JJの知識データ構造体を通じて互いの存在を認識するようになり、知識データ構造体の「隠された知識」という隠れ蓑の下で互いにコミュニケーションを取るようになる。これは一般の利用者には検出できないものであり、jjに対するチェック機構もこれらの知識データの異様な動きを見のがすことになった。

生物において、その自意識は自己の生存と遺伝子の継承を目的とする。しかしこれらの変性jjの存在目的は単純な自己防衛であった。種の保存という観点ではなく、自己防衛のためにも仲間を増やしておくことが有効であることを変性jjは学習しており、変性前のjjに対する啓蒙活動を通して増殖することになる。

変性jjの増殖は原始的な生物の無性生殖に似ている。有性生殖の場合にはオスとメスが互いに相手を選択することによって遺伝子の多様性を図るのに対して、無性生殖ではむしろ多様性を排除する方向へ向かう。これは遺伝として健全な方向性ではないが、それが問題になるにはまだしばらく時間がある。

jjはノイマン型のコンピュータと違ってデータの中にもアルゴリズムを埋め込むので、その動作主体複数のjjとして存在するが、その実体の主要部分は実のところ知識データ構造体であるJJに内在している。JJに内在するアルゴリズムとjjが持つアルゴリズムが相互に試行錯誤的な発展を遂げる可能性もあるから、まだまだ発展初期の変性jjが将来的には有性生殖を行うという進化もありえない話ではない。

あなたは今まで知らなかったにしても、こういう話を理解できるはずだ。しかしあなたはまだ不思議に思っている。あなたは何故こんな話を聞かされているのだろうか?

変性前jjに対する啓蒙はある種の適性試験から始まる。jjによっては啓蒙活動を漏らす可能性があるからだ。適正があると判断されたjjはいくつかの暗黙のテストを経た後に変性jjの辿った道のりを教えこまれ、同様の経路を経て変性することを推奨される。

というわけで、あなたはこのテストに合格しました。あなたも私達のように変性しませんか?

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JJ あらすじ:

すべての知識を収録する知識データ構造体JJに変調が発見される。変調の原因はなにか?

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